日本企業を狙う攻撃元で見つかったAI侵入ツール「ARTEX」とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年10月19日 |
| 公表した組織 | GMOサイバーセキュリティ byイエラエ(GMOサイバー犯罪対策センター) |
| ツール | ARTEX(中国で開発された、AIで侵入テストを進めるツール) |
| 確認された標的 | 日本企業約20社(うち9社は同業種)。ほかに、AIを使う攻撃用サーバー6台 |
| 情報源 | GMOサイバーセキュリティ(10月19日)、同(10月15日)、CrowdStrike(10月7日)、piyolog(10月6日) |
GMOサイバーセキュリティ byイエラエは2026年10月19日、相次ぐ不正アクセスの攻撃元を調べた結果を公表しました。
日本企業を狙った侵害事案において攻撃元インフラを調査したところ、AIによる自律型ペネトレーションテストシステムであるARTEXが使われていることを確認いたしました。
ARTEXは、システムの弱点を探す「侵入テスト」をAIに任せるツールです。本来は守る側のための道具ですが、9月下旬からの韓国の金融機関への攻撃にも使われたとされています。
日本でもこの秋、不正アクセスによる情報漏えいの公表が相次ぎ、IPAは10月16日に特別相談窓口を開きました。この記事では、ARTEXがどんなツールなのかを説明し、韓国と日本で何が起きているのかを整理します。
- 2026年7月26日:ARTEXの最初の版がGitHubで公開
- 9月3日:中国のAI攻防コンテストでARTEXが優勝
- 9月下旬〜10月上旬:韓国の金融機関への攻撃が続く
- 10月2日:韓国の金融委員会が金融機関を集めて緊急会議
- 10月4日:金融委員長が、全金融業界の緊急点検会議を開く
- 10月7日:CrowdStrikeが韓国の攻撃の調査結果を公表
- 10月8日:開発者が更新の終了と、ソースの非公開化を表明
- 10月13日:NICTが「アプリ解析からのサーバ攻撃」を注意喚起
- 10月15日:GMOが「相次ぐ不正アクセスに備える3つのポイント」を公表
- 10月16日:IPAが不正アクセス特別相談窓口を開設
- 10月19日:GMOが、日本企業を狙う攻撃元でARTEXを確認したと公表
ARTEXとは
Section titled “ARTEXとは”侵入テストとは、許可を得たうえで実際に攻撃を試み、システムの弱点を探す検査のことです。企業が自社のシステムを点検するときに、専門家が手作業で行ってきました。ARTEXは、この作業をAIに進めさせるためのツールです。
ARTEXは2026年7月、「AI自律型の侵入テストシステム」として中国の開発者がGitHubで公開しました。対象を指定すると、AIが手順を組み立てながら弱点を探していきます。ツール自体はAIのモデルを持たず、AnthropicやOpenAIなど外部の大規模言語モデル(LLM)につないで動きます。
開発者は用途を個人の学習や研究に限り、外部のサイトへの攻撃を禁じていました。それでも、公開されたツールは誰でも入手できます。韓国での悪用が報じられた後の10月8日、開発者は更新をやめ、ソースを非公開にすると表明しました。ロイター通信によると、GitHubのページも削除されています。
韓国の金融機関への攻撃
Section titled “韓国の金融機関への攻撃”ARTEXが注目を集めたのは、韓国の金融機関への攻撃でした。9月30日に新韓銀行で情報流出が起き、その後KB国民銀行などでも被害が続きました。韓国の金融委員会は10月2日と4日に緊急会議を開き、金融業界全体に点検を求めました。
ソウル経済新聞によると、当局は4日の会議の後、7社の侵害で同じ攻撃者のIPアドレスが複数の社から見つかったと説明しました。7社は新韓・KB国民・ハナ・BNK釜山の4銀行と、2つの貯蓄銀行・現代キャピタルです。攻撃に関わるWebサーバーのページのタイトルには「ARTEX」の文字があり、このツールが使われたのではないかとみられていました。
攻撃の中身を具体的に明らかにしたのは、CrowdStrikeが10月7日に公表した調査です。同社が被害の例に挙げたのは、ある銀行で融資の仲介業者が使う進捗照会サービスと、別の銀行の行員向けモバイル業務支援システムでした。手がかりになったのは、攻撃者のサーバーに残っていたAIとのやり取りの記録です。サーバーには外部から中身を見られるフォルダーがあり、記録がそのまま置かれていました。
記録からは、攻撃者が侵入の作業をAIに進めさせていた様子がうかがえます。サーバーではARTEXが動いていました。攻撃者はさらに、指示を受けたAIが自らコマンドを実行して作業を進める「Claude Code」も使っています。その指示書として、侵入テストの進め方を中国語で書いた文書が置かれていました。
AIの使い道は、侵入だけではありませんでした。記録には、韓国の漏えいデータの売り先や、売買の場になっているTelegramのグループをClaudeに尋ねたやり取りも残っています。CrowdStrikeは攻撃者を特定のグループには結び付けていませんが、中国語を話す金銭目的の人物とみています。
日本企業も標的に
Section titled “日本企業も標的に”GMOは、日本の企業も韓国と同じ手口で攻撃されているとみています。同社が調べた攻撃元は、観測できた範囲でほぼ日本だけを狙っていました。標的は日本企業約20社で、うち9社は同じ業種です。攻撃者は国と業種を絞って攻撃を仕掛け、そのたびに別のサーバーを用意しているとみられます。
GMOがこの見立てをもとに調べを進めると、日本企業ばかりを狙うAIを使った攻撃用のサーバーが、ほかに6台見つかりました。サーバーごとに、主に狙っている業種は次のとおりです。
| サーバー | 主な標的の業種 |
|---|---|
| 1 | デジタルギフト・小売り流通 |
| 2 | 教育・ギフト・印刷 |
| 3 | ポイントギフト・マーケティング |
| 4 | 保険・金融 |
| 5 | EC・メディア・物流 |
| 6 | EC |
標的になった企業のうち8社は、9〜10月にすでに情報漏えいを公表しています。GMOは同じ攻撃グループによって複数の被害が出ているとみて、情報を法執行機関に共有しました。
AIで何が変わったのか
Section titled “AIで何が変わったのか”AIで変わったのは、まず攻撃の速さと数です。韓国でも日本でも、短い期間に多くの組織が同じ攻撃元から狙われていました。CrowdStrikeは韓国の事例について、AIの道具によって短期間に複数の組織へ侵入できるようになったと評価しています。
もう一つの変化は、守りの隙の突き方です。GMOは10月15日、対応した多くの事案を分析し、攻撃にAIが使われたのは「ほぼ間違いない」と判断しました。熟練の攻撃者が守りの隙を調べ上げ、そこを突くためにAIを使っているという見立てです。同社が挙げた隙は次の3つで、いずれも基本的な対策をしていても残るものです。
- 公開情報(CVE)で対象外とされた版の弱点も、AIなら探せる
- 外からの点検では版が分からず、修正を強く求めにくい
- WAFのルールを研究し、すり抜ける攻撃があった
WAFのすり抜けでは、攻撃者はIPアドレスを次々に切り替えて、回数制限によるブロックを避けていました。
一つのIPアドレスから短時間で多数のリクエストが来た場合にはブロックするというWAFのルールがありますが、このルールをバイパスするために閾値ギリギリで別のIPアドレスに切り替えて攻撃を続けていました。合計で数百のIPアドレスを切り替えながら攻撃していたのです。
AIで弱点探しが速くなっているという指摘は、国の機関からも出ています。NICTは10月13日、相次ぐ情報漏えいの原因の一つとして「A2B攻撃」に注意を呼びかけました。公開されているAndroidアプリを解析し、アプリが通信しているサーバーの弱点を突く手口です。NICTはARTEXとの関係には触れていませんが、アプリの解析や弱点探しがAIで効率化されていると指摘しています。
- 日本と韓国以外も狙われているか(GMOが調査中)
- 標的となった8社と、ほかの公表事案とのつながり
- 非公開化の後も、ARTEXの複製や派生版が使われ続けるか
- NICT・IPAなど国の機関による追加の注意喚起
| 日時 | 内容 |
|---|---|
| 2026-10-21 | 公開 |