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北海道鷹栖町、特定健診の名簿調整で住民2125人分のデータを福祉事業所に誤送信 — 依頼と無関係な住民情報を記載して返送

項目内容
発覚日2026年5月8日
公表日2026年5月29日
対象組織・業界北海道鷹栖町/自治体
事象特定健診の名簿調整における個人データの誤送信(誤交付)
情報源Security NEXT(2026年5月29日)

北海道鷹栖町は2026年5月29日、特定健診業務における名簿調整の際、依頼元である町内の福祉事業所とは関係のない住民の個人情報を記載して返送するミスがあったと公表しました。

対象となったのは住民2125人分で、氏名、住所、性別、生年月日が含まれていました。

  • 町内の福祉事業所からの依頼に基づき、特定健診に関する名簿の調整作業を実施
  • 調整後の名簿を返送する際、当該事業所とは関係のない住民の個人情報を記載したまま返送
  • 2026年5月8日: ミスが判明
  • 当該事業所に誤送信データの削除を依頼し、削除の実行を確認
  • 対象となる住民に謝罪書面を送付
  • 2026年5月29日: 公表

町は、名簿調整の作業過程で、依頼と無関係な住民のデータを記載したまま返送したことを原因として公表しています。抽出条件の設定ミスであったか、ファイル差し替えの誤りであったかといった作業レベルの詳細は公表されていません。

以下は公表された事実からの推測であり、町が公表したものではありません。

特定健診の名簿調整は、町が保有する住民全体のマスタから、対象事業所に関係する行だけを絞り込んで返すという形の作業になります。2125人という規模は、鷹栖町の人口規模から見て「一事業所の利用者数」というより町の対象者名簿に近い母数であり、この点からは、絞り込み前の名簿がそのまま返送された、あるいは絞り込みが表示上のみ(フィルタ・非表示行・別シート)で行われ、ファイルとしては全件が残っていたといった可能性が考えられます。

表計算ソフトを用いた名簿調整では、行の非表示・オートフィルタ・ピボット元データ・別シートの参照元といった形で、画面上に見えていないデータがファイル内に保持されます。作業者が画面で確認した内容と、送信されたファイルの中身が一致しない構造は、この種の誤交付で繰り返し観察されるパターンです。いずれも推測であり、公表された事実は誤って記載して返送したことまでです。

1. 「絞り込んで渡す」ではなく「絞り込んだものだけを作る」

Section titled “1. 「絞り込んで渡す」ではなく「絞り込んだものだけを作る」”

外部に渡すデータを作る際、元の全件データを開いて不要な行を消す・隠す手順を取ると、最後の1手を忘れた瞬間に全件が渡ります。逆に、必要な行だけを新規ファイルに書き出してから編集を始める手順であれば、忘れても渡るのは必要な範囲だけです。同じ結果に見えて、失敗したときの被害が桁で変わります。外部提供用ファイルは「削って作る」のではなく「積んで作る」——これは訓練で身につく話ではなく、手順書の1行で決まる話です。

2. 非表示・フィルタ・別シートは「消した」ことにならない

Section titled “2. 非表示・フィルタ・別シートは「消した」ことにならない”

Excelの行の非表示やオートフィルタは表示制御であり、データの削除ではありません。受け取った側が非表示を解除すれば、あるいは単にファイルを別ソフトで開けば、隠したはずの情報が現れます。外部提供前に値のみの新規ブックとして保存し直す、あるいはCSVに書き出すという一手間が、この経路をふさぎます。

3. 削除依頼と削除確認をセットで実施した点は評価できる

Section titled “3. 削除依頼と削除確認をセットで実施した点は評価できる”

本件で町は、誤送信先の事業所に削除を依頼し、削除が実行されたことを確認しています。誤交付事案では「削除を依頼した」で公表を終える例が少なくありませんが、依頼と確認は別の行為です。相手が自治体の委託先や関係機関である場合、削除の実行と、その事実の記録までを確認できるかどうかが、対象住民に対する説明の確度を決めます。

ヤグラの視点 — 訓練で防げた分岐点:「知っている」と「手が止まる」の間にある距離

Section titled “ヤグラの視点 — 訓練で防げた分岐点:「知っている」と「手が止まる」の間にある距離”

自治体が業務上の正当な相手に、自らの手でファイルを返送する行為を、技術で止めることはできません。ここで書けるのは、業務手順と教育設計の話に限られます。

そのうえで指摘したいのは、この種の事故が知識不足で起きているわけではないという点です。「外部に渡すファイルには不要な個人情報を含めない」——これを知らない自治体職員はいません。にもかかわらず同型の事故が繰り返されるのは、知識と行動の間に「手が止まる瞬間」が設計されていないからです。

送信ボタンの手前で手が止まるのは、ルールを覚えているからではなく、過去に一度、その場面で肝を冷やした経験があるからです。だからこそ教育は、規程の読み合わせではなく、実務に近い場面の再現に寄せる必要があります。本件でいえば、「事業所から届いた依頼メールと、返送用に用意された名簿ファイル」を実際に開き、送る前にどこを見るかを手を動かして確認する——それだけで、次に同じ場面が来たときの反応は変わります。

注意したいのは、この類型が一般的なセキュリティ教育の射程から外れやすいことです。フィッシング訓練のようなメールベースの演習は、外から来る攻撃への反応を鍛えるものであり、自分が送る側に立つ場面は扱いません。メール一本足の訓練では、この事故は防げません。 自組織で頻度の高い外部提供業務そのもの——名簿の抽出、事業所への返送、様式の受け渡し——を題材にした業務固有の演習を組み立てるほうが、この事故に対しては実効的です。

町は誤送信先での削除を確認済みであり、対象住民への謝罪書面の送付を完了しています。あわせて職員への個人情報取り扱い教育の実施と、情報連携時の複数人確認体制の構築を進めるとしています。

日時内容
2026-05-29初稿公開(公表日時点)