コンテンツにスキップ
← インシデント一覧に戻る

名古屋市立小学校で児童25人分の保健調査票を紛失 — 既往歴・アレルギー情報を含む、校内捜索でも発見できず

項目内容
発生日2026年4月27日(書類が収納棚にあることを最後に確認した日)
判明日2026年5月8日
公表日2026年6月8日
対象組織・業界名古屋市(市内小学校。学校名は非公表)
事象児童の保健調査票および学級別一覧表(紙)の紛失
影響件数児童25人分
情報源Security NEXT(2026年6月8日)

名古屋市は2026年6月8日、市内の小学校において1クラス分の保健調査票と学級別一覧表を紛失したことを公表しました。

対象となったのは児童25人分の個人情報です。含まれていた情報項目は、氏名、性別、生年月日、クラス名、出席番号に加えて、既往歴とアレルギーに関する情報です。

書類は教員がクリップで留めた状態で各教員に配布され、内容の確認作業が行われていました。2026年4月27日に収納棚に置かれていることが最後に確認され、5月8日に所在不明が判明。全教職員による校内捜索が実施されましたが発見できていません

  • 2026年4月27日: 保健調査票と学級別一覧表が収納棚に置かれていることを最後に確認
  • この間、書類はクリップで留めた状態で各教員に配布され、内容確認作業が行われていた
  • 2026年5月8日: 書類の所在不明が判明
  • 全教職員による校内捜索を実施したが、発見できず
  • 2026年6月8日: 事案を公表。再発防止策としてバインダーの活用、保管庫の施錠管理の徹底、教職員研修の実施を予定

紛失の具体的な経緯(校外に持ち出されたのか、校内で誤って廃棄されたのか)は判明していません。同市は、書類がクリップで留められた状態で各教員に配布され、内容確認作業が行われていた過程での紛失としています。

考えられる原因(推測): 学校現場での紙書類紛失は、(a) 複数教員間を回覧する過程で、誰の手元にあるかを管理する仕組みがなく所在が追えなくなる、(b) 他の資料と混在した状態で機密文書として認識されないまま廃棄される、(c) 一時的に持ち帰った教員の手元で紛失し、校内にないことに気づくのが遅れる、といった経路が典型です。本件はクリップ留めという状態で配布されていた点が示唆的です。バインダーやファイルに綴じられていない紙束は、他の書類に紛れ込んだり一部が抜け落ちたりしやすく、また「何枚あるべきか」の確認が働きません。加えて、最後の確認(4月27日)から所在不明の判明(5月8日)までに約11日の空白があることは、回覧中の書類の所在を日次で把握する運用がなかったことを示唆します。ただしこれは公表事実からの推測であり、確定した原因ではありません。

紙の書類が物理的に所在不明になった事案であり、防御の起点は文書管理の業務プロセス設計と、機微情報を紙で回覧する運用そのものの見直しに置かれます。

1. 「既往歴・アレルギー情報」は件数で軽重を測れない

Section titled “1. 「既往歴・アレルギー情報」は件数で軽重を測れない”

漏えいの可能性がある児童は25人分であり、件数としては小規模です。しかし含まれる情報は既往歴とアレルギーに関する情報という、要配慮個人情報にあたる医療関連情報です。加えて氏名・生年月日・クラス名・出席番号が揃っており、「どの学校のどのクラスの、名前の分かる児童が、どういう疾患・アレルギーを持っているか」が特定可能な状態で記載されています。これは児童本人にとって長期にわたって影響を持ちうる情報であり、件数の少なさで軽微と判断すべき事案ではありません。

2. 発見できていないことの意味を正しく扱う

Section titled “2. 発見できていないことの意味を正しく扱う”

本件は全教職員による校内捜索を経ても発見に至っていません。回収済みの紛失事案と決定的に異なるのは、「誰の手にも渡っていない」ことを誰も確認できない点です。校内で誤廃棄された可能性が高いとしても、それを証明する手段はありません。対象児童の保護者への説明では、この「不確定なまま終わる」構造を正直に伝える必要があり、「校内で処分された可能性が高い」といった見立てを断定的に伝えることは避けるべきです。

3. 保健調査票の運用そのものを問い直す

Section titled “3. 保健調査票の運用そのものを問い直す”

本件で紛失したのは、年度初めに全児童から回収して内容確認を行う保健調査票です。学校保健の実務として全教員が内容を把握する必要があるのは事実ですが、要配慮個人情報を1クラス分まとめた紙束を複数教員間で物理的に回覧するという運用は、紛失が起きたときの影響が最大化する形です。同市が掲げるバインダー活用・施錠管理の徹底は妥当な一歩ですが、より根本的には、(1) 回覧を紙で行う必要があるのか、(2) 回覧するとして、誰の手元にあるかを記録する受け渡し台帳が機能するか、(3) 各教員が知る必要があるのは全項目か、それとも対応上必要な範囲(アレルギー対応の要否等)に限れるか、を問い直す段階にあります。

ヤグラの視点 — 影響範囲の特定:紙は監査ログを残さない

Section titled “ヤグラの視点 — 影響範囲の特定:紙は監査ログを残さない”

デジタルの情報漏えいには、少なくとも調査の手がかりがあります。誰がいつアクセスしたか、どこへ通信が出たか、何件がダウンロードされたか——完璧ではないにせよ、ログという形で痕跡が残ります。だからこそ「影響範囲の特定」という作業が成立し、対象者に対して「あなたの情報がこの範囲で影響を受けた」と説明できます。

紙にはそれがありません。本件で組織が到達できたのは「4月27日には棚にあった」「5月8日には無かった」という二点の観測だけです。その間に何が起きたか、書類が校外に出たのか校内で廃棄されたのか、誰かの目に触れたのか——構造的に確認する手段が存在しません。全教職員で校内を捜索するという対応は、それ以外に打てる手がないからこその対応です。

このことは、紙の運用を「デジタルより安全」と見なす発想への反証になります。ネットワークにつながっていない紙は外部から攻撃されませんが、代わりに失われたときに何が起きたかを説明する能力を持ちません。要配慮個人情報を紙束で扱う業務が残っているなら、その業務は「紛失時に影響範囲を説明できない」という前提で設計されている必要があります。具体的には、受け渡し記録を残す、回覧を紙で行わない、紙で行う場合は所在確認を日次で行う——いずれも地味な運用ですが、これが唯一の代替手段です。

同市はバインダーの活用、保管庫の施錠管理の徹底、教職員研修の実施を再発防止策として予定しています。書類が発見されるか、二次利用の報告があるかについて続報の可能性があり、注視が必要です。

日時内容
2026-08-05過去アーカイブとして記事化(キュレーション)